2018年05月11日

中国、「驚くなかれ」AIIBに肝心の審査能力が欠如していた

勝又壽良の経済時評 2018-05-11 05:00:00

融資でなく参加国数だけが自慢の種 日本を強引に参加させたかった理由

中国主導で設立された、あのAIIB(アジアインフラ投資銀行)の情報が途絶えている。昨年11月、麻生太郎副総理兼財務相が参院予算委員会で、AIIBの運営や融資審査に関し懸念を示した程度である。麻生氏曰く、「(AIIBから)金を借りた方も、ちゃんと計画を立てて返済しないと、(AIIBが)サラ金に取り囲まれちゃうみたいな話になった場合、元も子もない」と述べたぐらいだ。

ところが、5月5日、ADB(アジア開発銀行)の年次総会で、中国側はADBに対して、AIIBとの協調融資をせよと迫る発言が出てきた。「我田引水」の金融版であろう。AIIBは、ADBに比べて審査能力が欠ける。その穴をADBに埋めさせる。同時に、「一帯一路」関連融資を増やさせて、中国の肩代わりをさせるという魂胆である。

中国はAIIB創立当初、ADBを上回る融資をすると張りきっていた。それが、前述のような弱気発言に変わっている。詳細は後で取り上げるが、AIIB設立2年を経てようやく、国際金融機関の経営の難しさが分かってきたのだろう。子どもが、大人になりかけたようなものだ。

昨年5月、当時の中国政府にはまだ元気があった。「日本はいつまでAIIBを拒絶していられるのか」(『人民網』2017年5月23日付)と、高飛車な態度を取っていた。これに対する日本側の回答が、冒頭の麻生財政相の発言である。AIIBを審査能力のないサラ金扱いしているところに、日本の「AIIB観」が表れている。中国の金融能力は、この程度という日本の見くびり方である。

中国は、「一帯一路」で財政基盤の脆弱国へ無理を承知で貸し付けており、IMF(国際通貨基金)から警告されるほどだ。杜撰な融資を意図して行なっている。返済不可能になれば、担保を「強奪」する高利貸しに身を落としている。まさに、麻生財政相が命名したように「サラ金」並みの取り立てである。

中国自身が膨大な債務を抱えている。デレバレッジ(債務削減)は、掛け声だけである。米国の利上げが本格化している中で、中国は「債務の罠」にはまり込んでいる。過剰債務のゆえに、可能な限り利上げを回避してきたがそれも限度である。米国が、今年4回の利上げに踏み切ると、合計1%ポイントの利上げ幅になる。中国は、外貨流出を阻止すべく利上げは不可避になろう。AIIBどころの話でなくなっているのだ。

融資でなく参加国数だけが自慢の種

『人民網』(5月4日付)は、「AIIBの参加国が86ヶ国・地域」と題する記事を掲載した。

(1)「アジアインフラ投資銀行(AIIB)は2日に北京で、理事会が2ヶ国をメンバーに加えることを認可し、これによりメンバーは86ヶ国・地域になると発表した。新たに参加するのは地域内のパプアニューギニアと地域外のケニアだ。新華社が伝えた。この2ヶ国は加入認可を受けた後、自国での法的手続きや出資金の銀行振り込みを済ませると、正式に構成国となる。こうした参加意向国には、AIIBが分配せずに保留していた株式が分配される」

何の変哲もない記事だ。従来は、日米が主導するADB(アジア開発銀行)の出資国数と比較して、AIIBの方が多いと自画自賛していたもの。ところが今回は、そういう「自慢」が消えて、淡々と事実だけを報じるという控え目な態度になっている。中国の置かれている金融環境の悪化を認識するようになったのだろう。

笛や太鼓で大騒ぎしたAIIBの融資実績はどうなっているのか。ADBを追い抜くような大言壮語をしていたが、実態はその逆である。AIIBの単独融資案件が少なく、世銀やADBと共同融資する「慎重さ」を見せている。「一帯一路」では、高利貸しまがいの杜撰な貸付を行い、返済不能とみれば担保を差し押さえる強引さだ。これに比べて、AIIBは、銀行らしい行儀の良さを要求される。貸付けも慎重にならざるを得ない。

『人民網』(1月17日付)は、「AIIB設立2周年で参加国84ヶ国、貸出額42億ドルに」と題する記事を掲載した。

AIIBは、頻りと参加国の数を自慢の種にしている。参加国の多いのは、簡単に融資を受けられるという期待感であろう。これが、間違いの元であって、いざ融資の段になるとAIIBは慎重になっている。発展途上国の財政状態が悪く、返済見通しも厳しい結果である。中国政府が単独で融資している「一帯一路」では、その欠陥が表面化している。AIIBはもともと、「一帯一路」とペアで構想されたもの。「一帯一路」の融資が焦げ付きの懸念を強めている現在、AIIBの業務基盤も健全であるはずがない。

(2)「準備期間27ヶ月という約800日間以上の歳月をかけて設立された、世界初の中国のイニシアティブによる多国間金融機関『アジアインフラ投資銀行』(AIIB)が2016年1月16日に正式にスタートした。それから2年の月日が流れ、AIIBはどのような業績を上げ、国際社会はどのような評価を下しているだろうか。そしてAIIBが成功した秘訣とは何だろうか」

AIIB開業までの準備期間が27ヶ月あったから十分、という主張は間違っている。人材が集まらなかったのだ。北京の大気汚染が厳しく、西側の人間はAIIB就任を断ったのが真相だ。好き好んで、北京まで家族同伴で勤務する。先進国で暮らしてきた者に、大気汚染は拷問に等しく勧誘を断ったのだ。その後、不足する人材が埋められないから、融資も滞っているのであろう。

(3)「AIIBがこの2年間で参加及び投資したインフラ建設プロジェクトは24件に達し、対象国は12ヶ国、その貸出総額は42億ドル(1ドルは約110.6円)に上っている。金総裁は、『通常、ある機関が発足してから1〜2年間は、一連の大規模なプロジェクトを展開することは難しい。だがAIIBは最初の年に17億ドル、2年目に25億ドルのプロジェクトを実施した』とした」

AIIB発足後2年間の融資実績は、件数で24件である。貸出額は42億ドル(4620億円)である。初年度が17億ドル、2年目が25億ドルである。この融資が、AIIBの単独融資で行なわれたのでなない。次のパラグラフで明らかなように、世銀(世界銀行)やADBとの協調融資である。この協調融資は、世銀やADBの融資案件に「相乗り」したに過ぎない。審査は、世銀やADBが行なっているから、AIIBは安心して融資できるのだ。金融機関は、こういう相乗り融資が、審査能力のないところで行なうもの。AIIBが、あえて自慢する話ではない。

(4)「金総裁によると、『新型の多国籍金融機関であるAIIBは、独立した方針決定プロセスと運営モデルを備えており、いかなる政治的な制約も受けることはない。同時に、AIIBのプロジェクトの多くは“一帯一路 “参加国と地域で実施されており、これらの国と地域の人々にしっかりとした恩恵をもたらしている』という。世界銀行のまとめたデータをみると、16年1月のAIIB運営スタートから現在までの間に、世銀とAIIBは10件のプロジェクトに共同融資し、協力事業に37億ドルを投資し、このうち17億ドルはAIIBが出資した。ADB(アジア開発銀行)とAIIBの共同融資プロジェクトは4件で、アジア開発銀が4億3100万ドルを、AIIBが3億7400万ドルを出資した」

このパラグラフは重要である。AIIBのプロジェクトの多くが、「一帯一路」参加国であると明らかにしている。財政状態の脆弱な相手である。確実に返済可能かを見極めるのが重要だ。これが、世銀やADBとの協調融資になる理由であろう。

@ 世銀とAIIBは、10件のプロジェクトに共同融資し、AIIBが17億ドルは融資した。
A ADBとAIIBは、4件プロジェクトで共同融資し、AIIBが3億7400万ドルを融資した。

以上の協調融資14件とこれに伴うAIIBの融資額20億7400万ドルは、AIIB発足後2年間の融資実績(件数で24件、貸出額42億ドル)に対して、大きな比率を占めていることに気づくはずだ。

協調融資は、件数で58%、融資金額で49%も占めている。要するに、AIIBの単独融資は、件数で10件、融資金額で21億2600万ドルにすぎない。AIIBは、あたかもADBの強力ライバルになるような触れ込みで登場した。全くその気配はなく、ADBの後ろに隠れた存在と言える。

上記のAIIB単独融資に含められる融資の中に、中国向けの融資の2億5000万ドルが含められていたのだ。これをどう評価するかである。

「AIIBは12月11日、初の対中投資として、北京市の大気の質改善と天然ガス導管網建設事業に2億5000万ドルを融資することが認可されたと発表した。発足から約2年経って初めて、AIIBが対中投資したのはなぜなのだろう?AIIBの関連の責任者によると、中国主導で発足した国際開発金融機関であるAIIBは、ほかの中・低所得の発展途上国のインフラ発展に的を絞って融資している。そして、中国政府は、AIIB発足初期にAIIから多くの融資は受けないことにしている」(『人民網』2017年12月26日付)

AIIBは、中国国内への融資を原則、禁止すべきであろう。中国政府は、これまで大言壮語してきた手前、自国への融資分は他国へ回すという度量が必要なはずだ。ところが、恥も外聞もなく、チャッカリと北京市へ融資している。中国政府の狡さを証明している話だ。AIIBの融資は、形式的に言えば加盟国の出資金が原資のはずである。その資金が、北京市へ融資されたことになる。「詐欺行為」のような印象をぬぐえない。

現在の中国政府は、「平身低頭」した形で日本へ「一帯一路」への全面参加を要請している。だが、一年前までは随分と高姿勢であった。中国の「裏」を知る意味で、中国の二枚舌を明らかにしておきたい。

日本を強引に参加させたかった理由

『人民網』(2017年5月23日付)は、「日本はいつまでAIIBを拒絶していられるか」と題する記事を掲載した。

この記事は、中国政府が怖いもの知らずで「大言壮語」している動かせぬ証拠である。中国がAIIBによって将来、世銀以上の融資規模になると豪語している。「一帯一路」沿線国への融資で日米を圧倒するから、日本は早くAIIBに参加せよと言っているもの。傲慢そのものだ。私は、中国のこういう節度を失った発言が最も嫌いである。

日本国内でもAIIB参加論が多数であった。マスコミでは、産経新聞以外は賛成論である。私は最初から反対していた。AIIBは、中国の利益増進を目的としていることが理由である。日本の安全保障で将来、危険性をもたらす中国へ塩を送る必要はない。民主主義国であれば、協力は必要である。だが、専制政治で領土拡大意欲の大きい中国は、アジア安保で、戦乱の火種になる懸念が極めて大きい国なのだ。

(5)「時代の中で大きな抱負を抱く金融機関として、AIIBは世界銀行、アジア開発銀行(ADB)と並ぶ世界的金融機関になった。経済の新たな周期において、AIIBが焦点を合わせるのは付帯条件や手続きが繁雑な貧困扶助プロジェクトではない。AIIBはグローバル市場におけるインフラ建設の不足を補い、豊富な資金によって世界に普遍的に存在する『解決が待ち望まれるさまざまな問題』を解決することに目を向けている。こうしたわけで欧州の英国、フランス、ドイツなどの国から新興市場の『新興5ヶ国』BRICS)まで、さらには北米のカナダまで、中国が主導するAIIBに次々参加するようになった」

EU(欧州連合)が、英国を先頭に先を競ってAIIBへ参加したのは、先見の明がないことを示した。昨年5月、英独仏などのEU主要国は、北京で開催された「一帯一路」コンファレンスに参加し、中国の底意を見る思いがして、AIIBへの夢が覚めたのだ。現在は、独仏を先頭にして中国警戒論へ大きく舵を切っている。中国の行動の裏を読めなかった国々は、大いにその不明を恥じ入るべきだろう。その点で、日米は褒められる立場にある。中国4000年の歴史を透視すれば、彼らがその時々でどういう策略をめぐらすか、手に取るように分かるはずだ。甘言に乗せられては末代までの恥辱となろう。

(6)「様子見をしたり、決断を遅らせたりしている国といえば米国と日本だ。このほど閉幕した『一帯一路』国際協力サミットフォーラムに、米日両国も代表を派遣した。特に米国は中米首脳会談後、(貿易不均衡解決のための)『100日計画』をめぐって歴史的意義のある多くの共通認識に到達した。そうして実務主義を基調とするトランプ政権は、AIIBにメリットがあるとみれば、遅かれ早かれ参加することになる。米国にひたすら追随してきた日本は、あとどれくらいAIIBを拒絶し続けられるだろうか」

このパラグラフは、完全に的外れな記述となった。中国は、孫子の兵法そのもので迫ってくる国である。外交的には、秦の始皇帝が用いた「合従連衡」をテコにして相手陣営を攪乱する。孫子の兵法も合従連衡も紀元前の戦略である。その後、2200年もこの策を弄して成功し、現在のような版図まで拡大したテコである。現代でも、この古色蒼然とした策を利用しているが、日米はその裏を読んで行動している。だから、中国の策略には乗せられない慎重さを身につけている。中国は、自らの策が日米に読まれていることを知るべきだろう。

(7)「AIIBに集まる資金の規模がますます大きくなっている。AIIBが16年始めに運営をスタートしてから、これまでに貸し出した金額は20億ドル前後に過ぎないが、融資プロセスと貸出効率という点では世界銀行やADBを上回る。AIIBの金立群総裁は、『AIIBはこれまでに資本金(1千億ドル)の2.5倍にあたる資金を貸し出す権限を授与された。これはつまり、AIIBが非常に着実な基礎をうち立てたなら、追加資本を必要とせずに、2500億ドルの融資が可能だということであり、これは世界銀行の現在の融資規模に相当する』と述べた」

AIIBは、「融資プロセスと貸出効率という点では世界銀行やADBを上回る」と豪語している。これは、常設の理事会を設置しないから、その人件費が浮くことが根拠である。だが、金融機関にとって審査機能となる理事会が常設されないことの危険性をまったく弁えていない証拠である。本格的な金融機関を経営した経験がないのだ。

それほどAIIBの貸出効率が高いならば、なぜ、過去2年間の融資で世銀やADBとの協調融資に甘んじているのか。その理由を明らかにすべきだろう。AIIBに審査能力が備わっていない結果なのだ。大言壮語する中国は、自らの虚言に足下を掬われる運命であろう。

『日本経済新聞』(5月6日付)は、「インフラ投資 日中が応酬、 アジア開銀総会」と題する記事を掲載した。

この記事を読むと、中国がAIIBの運営に自信をなくしていることを間接的に表明している。ADBがAIIBと協調融資するケースは、AIIBの審査能力不足をADBが代行するという意味だ。ADBとAIIBが協調融資するほど、大規模融資案件があるはずがない。最大の問題は、融資が予定通り返済されるかどうかにある。中国の個別融資では、未返済になれば担保権の執行という形で債権を確保している。こういう「高利貸し手法」は、融資先国家の経済に貢献しないどころか破綻させるもの。この事実が今、批判を浴びている

(8)「アジア開発銀行(ADB)は5月5日、マニラで年次総会を開いた。麻生太郎財務相が質の高いインフラの重要性を訴えたのに対し、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)との連携を求めた。アジアで旺盛なインフラ投資のあり方をめぐり日中が応酬する形になった。麻生氏は総会で『質の高いインフラ投資は(相手国の)包括的な成長を持続させる。民間部門の参加を促し、雇用を生む』と効果を強調した。これに対し、中国の余蔚平財政副部長は、『AIIBや新開発銀行(通称・BRICS銀行)などとの協力を強めるべきだ』とADBが協調融資を増やすよう求めた。さらに『(中国の経済圏構想である)一帯一路など地域の他の協力枠組みとの連携を深めるべきだ』とも主張した」

中国は、AIIBを使ってADBに「一帯一路」関連融資をさせて、自らの権益基盤拡大を狙うという戦略に転換したのであろう。中国政府は、日本政府に対して執拗なまでに「一帯一路」」へ参加を求めている事情が、ここではっきりと浮かび上がっている。AIIBも一帯一路も暗礁に乗り上げている証拠だ。

実は、中国がAIIBと「一帯一路」にのめり込んだ裏に、ある秘策がめぐらされていた。沿線の国々は、地下資源が豊富であることだ。これを目当てに、将来の世界覇権国実現に向けた布石にしたかった。だが、資源国で経済発展した例がないのだ。肝心の科学知識基盤を伴わない結果である。皮肉にも、天は二物を与えなかった。中国は、「一帯一路」の地下資源に魅力を感じ、これを独り占めにしようと狙ったが、その前に息が切れてきたのが真相である
posted by beetle at 08:31| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする