2018年05月05日

中国、「駆け込み寺」日本の技術と金融が目当ての「一帯一路」

勝又壽良の経済時評 2018-05-05 05:00:00

日中対話の主題は「一帯一路」 大赤字の欧州・中国貨物鉄道

中国は、外交の軸足をどこに置くか悩んでいる。米国とは、貿易摩擦によって深い溝が生れた。中国が誇る通信機メーカーのZTEとファーウェイは、米国政府からスパイ嫌疑で追放される始末だ。中国が、米国からスパイの懸念を持たれるのは、米中間の信頼感が消えた証拠である。中国はひところ、ウイン・ウイン関係による「米中2大国論」を喧伝していた。その米国は今や、中国を仇敵扱いである。

EU(欧州連合)では、蜜月関係にあった中独関係がすっかり冷え込んでいる。中国に技術を窃取されていることに気づいたからだ。日中関係が冷却化していた間、中国のドイツ接近に気を許した結果、「虎の子」技術をさらわれたのである。ドイツ工作機械メーカーが、中国企業の買収によって、第4次産業革命の柱となる「IoT+ロボット」の土台になることを許した。「中国にしてやられた」と悔やんでいる。これを機に、ドイツはにわかに中国との距離を置き始めている。

ドイツは、こうしてフランスと共同で、EU内で「中国警戒論」の先頭に立っている。EU加盟国28ヶ国中、27ヶ国をまとめて駐中国大使による抗議書を中国政府に突き付けた。中国が、EU分断を策していることなどを問題視したもの。ドイツは、日中関係の疎遠をうまく利用した積もりだった。現実は、中国に一杯食わされた形だ。

中国は四面楚歌の状態で再び、対日関係の見直しに入っている。その日本接近ぶりは、傍目にもおかしいほど「デレデレ」状態だ。中国は、不倶戴天のごとく日本を批判した。それが、「ニーハオ」の連発である。日本も気を許すと「第二のドイツ」になって、臍(ほぞ)をかむ思いをするだろう。

日中対話の主題は「一帯一路」

『人民網』(4月19日付)は、「『一帯一路』が中日ハイレベル経済対話の重要議題にー専門家」と題する記事を掲載した。

この記事を読むと、4月16日から日本で開かれた日中経済対話の最大のテーマが、「一帯一路」事業に日本を参加させることにあった。中国が、ここまで「一帯一路」にこだわることに驚きを感じる。2013年、習氏が思いつきで始めたプロジェクトである。中国が、ヨーロッパに権益を広げる目的であった。同時に、中国の過剰生産品目の鉄鋼やアルミ、セメントなどの需要先を確保する狙いを込めていた。だから、受注したプロジェクトの9割は中国企業が請け負っている。地元企業には1割の工事を与えるだけという、中国利益優先のプロジェクトである。

EUは、この「一帯一路」計画に参加したものの工事を請け負えず、今では中国批判に回った。中国は、わざわざ敵を作るという外交的失敗に陥っている。中国は、EUに工事を回す経済的なゆとりがなかったのだ。こうなると、中国は日本を頼るほかない。中国自身、「一帯一路」プロジェクトで融資する資金的な余裕もない。これが、日本を「一帯一路」に引入れる理由である。現在の中国には、経済的負担となっている。日本に肩代わりさせたい心境なのだ。

(1)「中国之声『新聞縦横』の報道によると、中国の王毅国務委員兼外交部長(外相)と日本の河野太郎外相は4月16日に東京で第4回中日ハイレベル経済対話を開いた。中国の『一帯一路』イニシアティブが今回の対話の重要議題の一つとなった。2017年以降、日本政府は『一帯一路』協力に対する姿勢を積極的なものに転換。両国は、『一帯一路』沿線国での第三国市場協力を共通認識から積極的な行動へと次第に移している。中国社会科学院日本研究所の呂耀東研究員は、中国之声の取材に『一帯一路』が今回のハイレベル対話の重要議題となったことは、中日関係の一層の発展にとって大変積極的な意義を持つと指摘した」

中国政府は、なりふり構わず日本政府へ「一帯一路」」の参加を懇願している状態だ。もともと、中国一国で取り仕切れるプロジェクトではない。「一帯一路」沿線国は、多くの「信用格付け」がジャンク債以下という劣悪な財政状態にある。IMF(国際通貨基金)が、「一帯一路」プロジェクト推進で財政破綻を警告するほどだ。中国政府は、この状態を知らなかったはずはあるまい。それを承知で工事を行なった結果、過剰債務で返済不能な国が少なくも2ヶ国は出てきた。潜在的な過剰債務国は23ヶ国に達する。中国政府が、メンツを捨ててまで、日本へすがりつかざるを得ない状況へ追い込まれている。

(2)「中国社会科学院日本研究所の呂氏は、次のように語った。具体的な『一帯一路』の実施過程においても関係する国々に恩恵が及んでおり、日本側もこうしたメリットを目にしてきた。このため『一帯一路』の枠組で中日間の経済協力を強化することが、日本側に一層の経済的利益をもたらすと考えた。日本経済界も『一帯一路』の枠組での日本政府の協力意向を後押ししている。日本経済界のこの願いは大変強いものだ」

このパラグラフで、中国は恩着せがましいことを言っている。「一帯一路」事業が、日本にメリットになると強調する。そうならば、中国が従来通り一国で全てを取り仕切ってやれば良いこと。真相は、信用格付けがジャンク債並みか、それ以下の国々を相手にして行なう事業に悲鳴を上げ、日本へ「SOS」を打ってきたのだ。中国という国はどこまでも「メンツ」第一である。

(3)「そうすると、発展は二国間の経済関係の発展にとどまらず、地域全体、さらには『一帯一路』沿線の経済全体の発展、互恵・ウィンウィンにつながるものとなる。このため私は今回『一帯一路』が重要議題となったことは、中日関係の一層の発展にとって大変積極的な意義を持つと考える、と指摘した。また、中日関係の将来の発展について呂氏は、双方は中日間の4つの基本文書の原則と精神を遵守し、『互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない』というコンセンサスを確実に実行するべきだ。これを踏まえて初めて、中日関係の起伏と『寒の戻り』を繰り返さず、正常な軌道に戻すことができる、とした」

日本が、「一帯一路」に参加することは中国を助けるためではない。日本がこれまで行なってきたODA(政府開発援助)の一環として行なうことになろう。中国政府は、日中間で交わされた「4文書」の一つである、「日中共同宣言」(1998年)によるパートナーシップに基づくべきという屁理屈をこねている。こういう言い分は、中国の得意とするところだ。「一帯一路」プロジェクトは、習氏が国威発揚目的で勝手に言い出したもの。日本が、その尻ぬぐいをする義務はない。中国の野望である「世界覇権」を手伝う必要性はさらさらないのだ。

中国政府は、日本に対し重ねて「一帯一路」事業への参加を呼びかけている。

『人民網』(4月25日付)は、「中日の第三国協力は時宜を得たものー専門家」と題する記事を掲載した。

この記事では、日本が中国と共同で「一帯一路」のメイン・プレーヤーになるという構想を打ち出している。仮に、日本がユーラシア大陸へ進出して中国構想の片棒を担いだとしても、その政治的、経済的なメリットはすべて中国に帰属することだ。これは地政学的に見ても、中国の力をつけさせるだけである。日本の安全保障を危うくする結果を招くのだ。

日本が、こんなリスクの高いプロジェクトへ本腰を入れる必要はない。それよりも、日・米・豪・印の「インド・アジア戦略」に取り組むことのほうが、どれだけメリットが大きいかは明らかだ。中国に甘い顔をすると、際限なく引き込まれる危険性がある。それを学ぶには好適な記事であろう。中国は、日本の褌で相撲を取り、ユーラシア大陸の横綱を狙っていることは間違いない。これを足がかりに、世界覇権に王手を掛ける作戦である。日本が、こんな野望へ協力する「お人好し」でいいはずがない。

(4)「中日両国が連携して「一帯一路」第三国市場を開拓し、強みによる相互補完の分野で深い協力を拡大することは、中国にとってプラスであるだけでなく、日本が資金・技術面の強みを発揮し、日本製品の輸出につなげ、経済回復を促進するうえでもプラスだ。また、中日両国は世界第2、第3のエコノミーであり、『一帯一路』の枠組での第三国協力によって、スマート製造、省エネ・環境保護などの産業で日本の技術的強みと中国企業のプロジェクト建設・管理ノウハウを有機的に結合し、第三国の産業の高度化を促進し、現地経済の急速な発展を後押しすることができる」

このパラグラフの中に、中国が「一帯一路」で日本に依存している理由がはっきりしている。日本の技術力と金融力である。この「二大金棒」は、中国がとうてい及ぶところでない。ただ、格付けでジャンク債か無格付けという諸国へ、日本のハイテク技術を植え付けることは無意味である。そう言っては失礼だが、中国技術で十分に間に合うはずだ。となると、中国が最も日本へ依存したいのは「金融力」に違いない。日本は、世界最大の対外純資産保有国である。金利も事実上「ゼロ」だ。中国が甘言を弄してまでも「ジャパン・マネー」を取り込みたいと策を練る事情が透けて見える。

日本製品は、「一帯一路」沿線国へ輸出できるだろうか。はっきり言えば、その需要はない。日本の高価格・高品質の製品よりも、中国で生産されている「普及品」で間に合うはずである。また、ASEAN(東南アジア諸国連合)の製品で代替可能である。日本企業の「一帯一路」への関心が低いのは当然である。中国は、日本を「一帯一路」へ引き込みたいので、夢のような話を持ち込んでいる。割り引いて聞くことが必要だ。

(5)「インフラ整備分野で、中日は開発協力に共同参加し、価格や効率面の中国の競争優位とプロジェクトや運営管理技術面の日本の強みを結びつけ、『直接投資+対外貿易+融資協力』の結合したモデルで協力を実施することができる。装備製造など産業で、第三国国際生産能力協力の実施を検討し、中国の装備製造及び人的資源と日本の先端技術と営業網を結びつけ、『一帯一路』関係の発展途上国で生産・組み立てを行い、世界市場に良質で安価、省エネ・環境保護の装備製品を提供し、世界市場の多国間のウィンウィンを実現することができる」

「一帯一路」という壮大なプロジェクトは本来、世銀や国連が音頭を取ってやるべき仕事である。中国が、リーダーになって遂行できるレベルを超えている。中国は今、手に余る難物であることが分かったわけで、日本に助太刀を求めて来た。「一帯一路」は、あくまでも中国の権益拡大に資するものである。この目的に変わりはないはずだ。米国は無関心。EUは中国の意図を察知して逃げ腰である。こういう「曰く付き」プログラムに、日本がのこのこ顔を出すのは世界の笑いものになる。「中国に丸め込まれたな」と。

(6)「強みによる相互補完を発揮し、『一帯一路』関係国・地域の太陽エネルギーと風力発電などクリーンエネルギーの開発、汚水処理、ごみ焼却、装備製造のエコ化などの分野で協力を実施し、『一帯一路』関係国・地域の経済建設のエコ化水準を高める。『一帯一路』物流ルートを共同建設し、「遼満欧」「蘇新欧」「渝新欧」など現有ルートの助けを借り、交通・物流インフラ、ルートの管理・運営、通関の一本化などの面で意思疎通や協力を強化し、日本企業が中国の『一帯一路』の急行に相乗りし、輸送コストを削減し、輸送効率を高めるとともに、現有ルートの運営効率を高める後押しをする。電子商取引分野での各自の成熟したノウハウを十分に発揮し、双方の既存の集客能力、物流・決済システムを利用し、第三国市場で電子商取引協力プラットフォームを築き、第三国市場を共同開拓する」

「一帯一路」事業の最終的メリットは、このパラグラフで列記されているようなものがあるのだろう。問題は、「コスト・パフォーマンス比較」である。この事業を完遂するに必要な資金を計算することが不可欠である。中国は今になって、これに要する資金が膨大であることが分かり、呆然としているのに違いない。

中国は、「一帯一路」沿線の貨物列車を運行している。昨年1月、ロンドンまでの1万2000キロをつなぐ貨物列車を登場させた。だが、政府の補助金で貨物を集めているのが実態だ。赤字運行である。詳細は、後で取り上げる。それだけに、日本を引き込んで赤字を減らしたいのだ。

このパラグラフでは、次のように指摘している。「日本企業が中国の『一帯一路』の(貨物便の)急行に相乗りし、輸送コストを削減し、輸送効率を高めるとともに、現有ルートの運営効率を高める後押しをする」と持出している。ロンドンまでの貨物直行便を運行させること自体、世紀の大事業であるものの、ロンドンから中国への「帰便」では貨物が半分しかない。赤字路線である。

大赤字の欧州・中国の貨物鉄道

『ブルームバーグ』(4月2日付)は、「貨物鉄道に中国の執念、政府支援で欧州便拡大」と題する記事を掲載した。

「一帯一路」のメインルートは貨物鉄道である。昨年1月からロンドンへの貨物直行便を運行している。だが、コンテナ1個当たり7000ドルの補助金をつけて集荷している現状は長続きするはずがない。ましてや最近、EU(欧州連合)が中国との距離を置き始めたとなれば、不安要素がさらに増えてきた。そこで、日本を「一帯一路」に引き込んで中国色を薄めようという戦略であろう。中国はカメレオンのように、「反日」から「親日」へと舵を切り始めた裏に、のっぴきならぬ事情が隠されているのだ。

(7)「米ワシントンの民間シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のリポートによると、昨年1月からの6カ月で、欧州−中国間で輸送された鉄道貨物は金額にして前年同期比で2.4倍以上に急増した。中国の約35都市が欧州の34都市と連結されている。中国の重慶−独西部デュースブルクや中国南東部・廈門市−ハンガリー・ブダペストはどれも10年前には存在しなかった路線だ。こうした欧州−中国間の貨物輸送の主な原動力の一つは、中国の習近平国家主席が打ち出した現代版シルクロード経済圏構想『一帯一路』政策だ。米金融大手モルガン・スタンレーは、一帯一路のインフラ整備で今後10年の間に道路や港湾、鉄道、送電網に1兆2000億ドル(約128兆円)が投じられると予測している。中国全土の地方政府は1万1000キロメートル余りのシルクロード輸送路への集客力強化に向け、惜しみなく補助金を投じ、独自の鉄道網整備や物流会社設立を急いでいる」

CSISのレポートによれば、中国の約35都市が貨物鉄道で欧州の34都市と連結されている。昨年1月から6ヶ月間で、欧州−中国間で輸送された鉄道貨物は金額にして前年同期比で2.4倍以上に急増した。だが、この裏には、後述の通り中国政府の補助金が動いていた。要するに、札束で貨物便を走らせているようなものだ。これをテコにして、さらに「一帯一路」で今後10年間に、道路や港湾、鉄道、送電網に1兆2000億ドル(約128兆円)が投じられると見込まれている。貨物鉄道の成否は、この壮大なインフラ投資の成り行きのカギを握っているようだ。ここへ、日本の技術と金融の総合力を投入させようというのが、中国の目論見である。

(8)「貿易業者は以前、15〜18日かかる同区間の鉄道輸送ではなく、2倍の所要日数ながら料金が安い貨物船に流れていたが、中央政府の政治的支援が、鉄道貨物を選ぶ一助となっている。CSISは、中央政府による貨物鉄道への補助金により、コンテナ1個当たり7000ドル、もしくは、費用全体の半分をカバーできると試算している。こうした支援により、半分は何も積んでいないまま欧州から戻ってくる割高な貨物列車の運行費用負担を軽減できる。中国では対欧貿易が巨額の貿易黒字を稼いでおり、大陸横断貨物の約70%が中国から欧州向けだ」

欧州―中国間の貨物輸送は、貨物船で約1ヶ月の時間がかかった。ただ、輸送料金の安いのが魅力である。貨物鉄道は、輸送期間を貨物船の半分に短縮するが、料金は2倍に跳ね上がる。そこで、中国政府は補助金をつけて輸送のコストアップ分をカバーしている。貨物量が増えれば、この補助金は不要になるが、その目途は立っていない。中国が、この財政負担増にいつまで耐えられるのか。日本が、この鉄道貨物を利用するとは考えられない。日本は、現地生産にシフトしているからだ。

第4次産業革命の進展で、「IoT+ロボット」によって人件費の高い先進国でも、発展途上国並みの工業生産がペイ可能になっている。となると、人件費が安いだけが取り柄の地域での生産が、今後とも続けられるか不確かになっている。ユーラシア大陸横断鉄道は、鉄道ファンには魅力的でも、果たして貨物鉄道として採算に乗る時代が来るのか。はなはだ疑問と言わざるを得まい。

(9)「オーストリアの貨物利用運送事業者ファー・イースト・ランド・ブリッジのウィルヘルム・パッツナー最高経営責任者(CEO)によると、欧州−中国間の貨物鉄道の積み荷の半分は米HPインクのノートパソコンや台湾フォックスコン(鴻海)が組み立てを請け負っているアップルの『iPhone(アイフォーン)』などの電子機器。5年前の約9割から減少した。残り半分の大半を占めるのは、スウェーデンのイケア製をはじめとする家具や洗濯機、掃除機などの家電製品だという。同氏は、『中国政府が補助金を停止すれば、欧州−中国間の貨物鉄道の発展は深刻な打撃を受けかねない』と、同路線が抱える潜在的リスクを指摘した。同氏は『政府支援を前提にした事業モデルを維持することは誰にもできない。コスト引き下げの取り組みを続けているのはこのためだ』と話した」

欧州−中国間の貨物鉄道の積み荷は、特定企業の製品が過半を占めているという

1.米HPインクのノートパソコン

2.台湾フォックスコン(鴻海)が請け負うアップルの「iPhone」

3.スウェーデンのイケア製などの家具や洗濯機、掃除機などの家電製品

以上は、耐久消費財である。日本企業は、こういう「B2C」(耐久消費財生産)から脱して、「B2B」(部品や中間財生産)へシフトしている。人件費動向に大きく影響される生産分野から脱却した以上、「一帯一路」沿線に生産基地を設ける必要性は薄れているはずだ。こうなると、「一帯一路」の貨物鉄道利用の可能性は極めて低くなろう。

「一帯一路」の貨物便は、貨物量が少ないという本質的な悩みに直面している。中国政府の補助金が切れれば、運行不可能になる運命だ。中国政府は、この程度の需要予測も怠って、「出発進行」の笛を吹いてしまった。今さら、後ずさりできずに困惑している。そこで、日本へ頼み込んできたのだ。日本は、中国の駆け込み寺ではない。
posted by beetle at 08:22| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする