2018年04月30日

中国、「脆弱」米国の技術封鎖でお手上げ「世界覇権論」瓦解

勝又壽良の経済時評 2018-04-30 05:00:00

半導体「離陸」に大きな障害 緊急権限法で技術流出阻止

中国は、「大言壮語」が好きな国である。物事を大袈裟に言って相手を屈服させる。実力よりも大きく見せかけて、「戦わずして勝つ」という孫子の兵法の国である。習氏は、「中華復興」を打ち出して国家主席に就任した。2期目の今年は、「2050年に世界覇権へ挑戦」とまで示唆する勢いだ。この一言が、民主主義国から一斉に反発を受けている。習氏が、憲法を改正して「国家主席の任期制」を廃止。これで、習氏は「永久政権」が可能になったことも重なり、中国の存在を「第二のソ連」として危険なものと見るまでになっている。

習氏は、米国との対立を回避すべく緩衝帯として日本とインドに接近している。日本とは8年ぶりの経済対話を開催し、インドとは近く、昨秋以来3回目の首脳会談を開くという慌てぶりである。ここまで掌を返すように日印への融和策へ出るのであれば、「世界覇権論」など言わずに、黙って足下を固めるべきであった。「大言壮語」という身から出たサビで、米・欧が警戒感を強めている。

米欧日が、中国を警戒する上で最初に行える手段は、重要技術を渡さないことである。知財権を守って、中国に盗まれないようにガードするのだ。米国が先に、中国の世界的な通信機メーカーの中興通訊(ZTE)へ7年間、製品輸出を禁じたのは、米国の「対中警戒論」の第一弾である。これと同時に、ZTEと並んで世界的は通信機メーカーに発展した華為技術(ファーウェイ)製品も米国内での販売を禁止した。ZTEもファーウェイも安全保障上の理由だ。換言すれば、両製品ともスパイ行為の疑いがあるとしている。

太平洋戦争開戦直前、米国では日本への警戒感が沸点に達していた。駐米日本大使館員には、FBI(連邦捜査局)が常時、尾行するという物々しい警戒を行なっていた。現状での米中関係は、そこまで悪化していない。ただ、米国内で中国製通信機を販売させないという決定は、米中の深刻な対立を浮き彫りにしている。

中国政府は、米国の「剣幕」に驚いたのか、中国宣伝映画の国内上映を突然に中止した。米国を刺激してはまずい、と判断したのであろう。

「中国プロパガンダ宣伝当局は4月19日、国内商業動画サイトに対して、プロパガンダ映画『至Q了、我的国(すごいぞ、わが国)』の放送を禁止すると通達した。理由について言及していない。90分間の映画は国営中央テレビなどが製作した。世界最長の鉄道網や世界最大の電波望遠鏡『天眼』を紹介するなど、2012年の党大会後に科学技術など各分野で収めた『輝かしい成果』を絶賛している。放送禁止になった背景には、米商務省が中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)と米国企業の取引を今後7年間禁止する決定を下したことがあるとみられる」(『大紀元』4月21日付)

中国政府が、プロパガンダ映画の上映を中止したのは米国をさらに刺激しまいということが理由であろう。だが、それよりも「世界覇権論」をぶち上げたほうがはるかに刺激的である。国内経済の基盤がぐらぐらしている段階で、無鉄砲にも「世界支配」などと口が裂けても言ってはならない台詞であった。南シナ海の島嶼を不法占拠し埋め立て、軍事基地を構築して警戒されているところへ、まさに火に油を注ぐ愚かな「世界覇権論」発言である。

米国政府によるZTEへの製品販売禁止(7年間)は、ZTEへ死活的な影響を与えている。

半導体「離陸」に大きな障害

『ロイター』(4月23日付)は、「焦る中国、半導体開発を加速、対米貿易摩擦重く」と題する記事を掲載した。

この記事では、中国の半導体産業がまだ「テイク・オフ」していない実情がよく分かる。日米貿易摩擦時では、日本の半導体産業が米国を上回って世界一の座についていた。これに比べると、中国の半導体は外国技術によって「呱々の声」を上げたばかりである。肝心の米国技術が封鎖されれば、それでお仕舞いという状況だ。元々、外国技術に依存して旗揚げした「中国製造2025」である。他人の褌(ふんどし)で相撲を取り横綱(世界覇権)になろうとしていたからお笑いである。習氏は、「世界覇権論など言わなければ良かった」と臍(ほぞ)をかむ思いに違いない。

(1)「中国が国内半導体産業の発展を加速させる構えだ。半導体の国産化はかねての重要目標にもかかわらず進展が遅く、米中貿易摩擦を背景に、米国との差を縮めることが喫緊の課題に浮上してきた。関係筋2人によると、海外半導体企業の買収が最近相次いで阻止されたこともあり、中国の高官は焦りの色を濃くしている。中国は製造業発展の道程を示す『メード・イン・チャイナ(中国製造)2025』で半導体開発を柱の1つに据え、25年までに国内で使う半導体の40%以上を国産とする目標を掲げている。しかし業界筋によると、中国の半導体メーカーは目標の達成に苦心している」

ハイテク技術では、半導体が中心になる。無限の発展可能性を秘めた分野である。この要の技術を海外から手に入れて、中国技術の発展を目指そうという「他国任せ」である。この目論見が、米国政府の果敢な阻止によって空転する危険性が出てきた。韓国の半導体技術は日本から漏出したもの。特許権の支払いもない「窃取」である。韓国は、日本非難の根拠に「日韓併合」を上げているが、半導体技術の窃取は日本にとって大損害であり、韓国にとっては「僥倖」であった。経済的な面から言えば、韓国は膨大な利益をタダで手に入れたのだ。日韓併合のマイナスはカバーして余りあるに違いない。

このように、半導体技術は産業進化に不可欠な存在である。中国は米国を怒らせた結果、この「産業のコメ」が簡単に入手できなくなってきた。米国は、GDP2位の国家の存在に対して、神経過敏になる習性がある。かつての日本は、それ故に日米経済摩擦で激突した。日本は米国と同盟国であるので、「覇権を狙う」ことはあり得なかった。それでも、日米経済摩擦では、日本が相当の深手を負ったのだ。

中国は、日本と全く異なる立場である。イデオロギーが対立しており、平然と米国覇権に挑戦すると言い放った国である。こうなると、米国は情け容赦することなく、中国経済の基盤に切り込んでゆくはずだ。米国の座を狙うと広言している「敵」に対して、手加減をするはずがない。中国は、世界中に諜報機関を置いて、中国の宣伝を行い相手国政治へ浸透力を高めている。オーストラリアが最近、これに気づいて外国からの政治資金受入を禁じて、中国の影響力遮断に起ち上がっている。この結果、豪州・中国間の外交関係は冷え込んでいるほどだ。

中国政府が、他国へ政治的に浸透して何を目指すのか。中国の「衛星国」をつくる意図である。民主国の豪州まで衛星国にして、手懐(てなず)けようという魂胆は、恐るべき策略である。専制国家が、民度の高い民主国家を配下にしたい。すごい発想法で驚愕する。豪州は、ファーウェイ製品排除で米英と同じ歩調をとっている。

(2)「中国政府系投資ファンドは半導体試験装置を手掛ける米エクセラ(XCRA.O)の買収を計画したが、対米外国投資委員会(CFIUS)が2月に阻止。昨年は中国ファンドによる米半導体メーカー、ラティス・セミコンダクター(LSCC.O)の買収も米政府により阻止された。あるサプライヤーは『以前は、技術開発は容易、あるいは海外から入手できると考えられていたが、そうではないことが分かった』と語る。米政府が先週、米企業による中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)への製品販売禁止を打ち出したことで、半導体開発の遅れはさらに鮮明な問題となった。中国の半導体サプライヤー、業界団体、投資家、アナリストらへの取材によると、中国は半導体開発にハッパをかけ、多額の資金を注ぎ込んできたにもかかわらず、最先端半導体である集積回路の開発で後れを取っている。より下位の半導体開発の方が進んでいるという」

米トランプ政権は、中国の技術窃取政策に対して敏感だ。半導体技術を中国にかすめ取られないようにM&Aを阻止している。中国は、韓国のサムスン電子がそうであったように、足りない技術は海外から取り入れれば済む、と考えてきた。サムスンの場合、半導体技術を日本から窃取した後、日本がこれに気づいて一切の技術供与を拒否した。そこで、他国からの技術導入に依存した。中国は、この「韓国版」を目指してきた。だが、これからは米国の「非常線」によって阻止される。

米国が、ZTEへの製品販売禁止を打ち出したことで、中国の半導体開発はさらに遅れる見込みだという。問題は、ZTEが米国製の部品を組み込んで製品化していることだ。ZTEが、米国製半導体が入手できなければ、販路を失う危険性が強まる。製品販路を失った状況で、半導体の国産化が可能であろうか。技術開発のほかに、製品販路の問題が立ちはだかってくる。

(3)「関係筋2人によると、政府指導部は対米貿易摩擦を懸念し、国産半導体の研究開発費をさらに増やすことを検討している。半導体産業に特化した『国家集成電路産業投資基金』は、3月調達した推計320億ドルの約4分の1を集積回路の設計に投資する方針だ。しかし、数十年をかけて複雑な技術を発展させてきた先進諸国に短期間で追い付くのは容易ではない。中国企業は海外競合社からのエンジニアの引き抜きにも多額の投資を行っている」

中国政府は、半導体の国産化のために約80億ドルを投入するという。これだけの資金を投入しても、先進国の半導体研究から約40年もの遅れがある。これをカバーすることは容易でないと指摘する。その通りであろう。こういう遅れを自覚しながら、それでもなお「世界覇権」へ対抗する「自惚れ」はどこから生まれたのか。かつての「中華帝国」への夢が、こういう幻想を生んでいるのであろう。

(4)「中国の半導体産業で働いている韓国の半導体エンジニアは、『エンジニアが中国で働けば、韓国や台湾で働く場合の5倍の給与がもらえることも珍しくない』と明かす。ボーナスも多く、他のエンジニアを紹介すれば多額の奨励金がもらえるという。ただ、ハイテク・コンサルタント会社トレンドフォースの調査ディレクター、ジェター・テオ氏によると、中国は積極的に人材を集めてきたものの、他国と本当に勝負するためには70万人の半導体専門家が必要で、実際の人数はその半分に届いていない。

中国は、世界中から高給によって技術者を集めている。韓国や台湾で働く給料の5倍を支給する例もあるという。カネに糸目をつけず、と言うところだろう。中国が、他国と同じレベルに達するには、70万人の半導体専門家が必要という。まだ。その半分も集まっていない状況だ。道遠し、と言うほかない。

緊急権限法で技術流出阻止も

『ブルームバーグ』(4月21日付)は、「米財務省、中国の対米技術投資を制限、緊急権限法の活用検討」と題する記事を掲載した。

この記事では、米国の先端技術が中国へ流出する危険性を封じるために、米国への直接投資を制限する法的な措置を講じるとしている。これまでは、米国の開かれた市場という原則から、直接投資へ法的な制限を課すことに疑問の声が上がっていた。対米外国投資委員会(CFIUS)の権限拡大が、議会で論議を呼んだ理由がこれである。だが、中国政府のなりふり構わない技術窃取を見ると、そのような原則論では立ちゆかぬという危機感が出てきた。米国はそこで、国際緊急経済権限法(IEEPA)を活用するという。この「奥の手」を使ってまで、あくまで中国をねじ伏せる。米国の凄みが感じられるのだ。習氏の「世界覇権論」は、ここまで余波を生んだのである。

(5)「米財務省のタルバート次官補は4月19日、機密性の高い極めて重要な技術に対する中国からの投資を制限するために、同省が国際緊急経済権限法(IEEPA)の活用を検討中だと明らかにした。また、省内ではこれとは別に、外国企業による米国への直接投資が国家安全保障に及ぼす影響を検討する対米外国投資委員会(CFIUS)の権限拡大に向けた超党派での法案成立を精査していると語った。トランプ政権は、中国による米企業の知的財産権侵害への制裁措置を計画しており、こうした取り組みはその一環に当たる。

米企業には、中国による知的財産権窃取への動きが、油断も隙もならぬという切迫感をもたらしている。M&Aや直接投資という月並みな方法のほか、共同研究の持ちかけ、さらに非合法な産業スパイなど、ありとあらゆる方法でアプローチしてくるという。中国企業の後ろには、中国政府が莫大な補助金でバックアップしている事実が存在する。こうなると、米国は企業と政府が一体となって、中国の魔手から身を守る必要があるようだ。

(6)「トランプ大統領は3月に米通商代表部(USTR)から中国の知的財産権侵害の報告を受けた後、ムニューシン米財務長官に対し中国企業による対米投資の制限策を検討するよう要請していた。3月22日付の大統領文書によると、米国で重要と見なされる産業や技術に対し、中国が指示ないし促した投資をめぐる懸念について、ムニューシン長官は5月21日ごろまで対応策を提案する必要がある」

米国政府は、中国企業による技術奪取戦術への対抗策を5月21日までに発表する。こういう「技術防衛策」が公表されること自体、中国にとっては不名誉この上ない話だ。改革開放政策以来、技術の自主開発を放棄して、安易な技術導入策を採用してきた。このことが、やがて技術窃取へとエスカレートさせた理由に違いない。

(7)「中国政府系の半導体大手、清華紫光集団は既に、米国のハイテク企業の買収や投資計画を撤回せざるを得なくなっている。ただ、テンセント(騰訊)やアリババグループ、百度(バイドゥ)を筆頭に民間企業は積極的に対米投資を行っている。ブルームバーグのデータによれば、テンセントはこの5年で50社以上の米企業に投資。オーベンのような人工知能(AI)関連の新興企業や人工衛星装置の開発を手掛けるサテロジックUSAなどが含まれる。国際緊急経済権限法は『異例かつ特別な脅威』への対応として大統領に国家緊急事態を宣言する権限を付与する。大統領が緊急事態を宣言した後、取引の停止や資産接収が可能になる」

国際緊急経済権限法(IEEPA)は、米国政府が「異例かつ特別な脅威」と判断した場合、大統領によって、中国企業がすでに米国企業へ投資したケースでも、取引の停止や資産接収が可能になるという。これは、戦時下で敵国企業に適応するような法律の印象だ。ここまで行なって、中国企業の技術窃取を完全遮断しようというのは、米国にとって相当な危機感の表れであろう。米中対立は、ここまで来ていることを知るべきだ。
posted by beetle at 08:22| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする