2017年03月31日

中国、「米中首脳会談」習氏は手土産持参の融和策も効果続かず

勝又壽良の経済時評 2017-03-31 05:00:00

習氏が下手に出て機嫌取り いずれ米中は決定的な対立

予測不可能とされる米国大統領のトランプ外交は、中国にとって出方が極めて難しく頭を悩ませているようだ。中国が強い言葉で接しれば、トランプ氏から「倍返し」で跳ね返ってくるのは想定内である。それだけに、中国のトランプ対応は慎重を極めている。まさに、腫れ物に触るような神経の配りようである。

2月10日、安倍首相とトランプ大統領の会談直前、習主席はトランプ大統領と就任後の初電話会談に臨んだ。トランプ氏就任後、主要国首脳との会談ではロシア・プーチン大統領を除けば、最も遅い電話会談である。習氏にとっては、気の重い会談であったのだろう。トランプ氏が、「一つの中国論」にこだわらない姿勢を見せていたので、これをいかに上手く矛を収めさせるか。その見通しがつかないので、ズルズルと会談日程を先送りしてきていたに違いない。

習氏が下手に出て機嫌取り
この先送りについては、次のような説明がある。

『大紀元』(3月6日付)は、「トランプ大統領の態度が一転、一つの中国容認の理由は」と題して、次のように報じた。

この記事では、習氏が今年秋の19回党大会を控え、米国とはできるだけ波風立てずに過ごしたいという祈りにも似た気持ちを持っていると指摘している。本来ならば、トランプ氏が「一つの中国論」にこだわらないと発言したのだから、真っ正面から論争を挑んでも可笑しくはなかった。それが、若干の「ジャブ」に終わって冷静さを保っていた。その裏で中国は、ワシントンで1000人にも及ぶロビイストを動かして、情報収集に当たらせていたのだ。

この事実から浮かび上がる点は、トランプ氏とは喧嘩をしないで静かに対話することで落ちついたはずだ。今年が、習氏にとって極めて重要な年になるからだ。秋まで国内問題に没頭して、習体制を盤石なものに仕上げたいからである。主席・副主席のトロイカ体制(習近平・李克強・王岐山)で最高実権を握り、2022年以降は「習大統領」に持ち込みたいのだろう。

習氏が、トランプ大統領との本格的な政策調整について、「19大」終了後に話し合いたいという条件を内々に出しているのではなかろうか。そうでなければ、トランプ氏が大統領選挙戦中に息巻いていた「中国強硬策」は当面、棚上げされたようにも見えるからだ。

(1)「米中間の緊張が続く中、2月8日、習近平国家主席に対し、トランプ大統領からの新年祝賀が届いた。祝賀には、トランプ大統領の就任時に習主席が送った祝電に対する返礼と、中国人民への新年のあいさつのほか、『習主席と協力し、米中双方に更に有利となるような建設的関係を促進することを希望する』と記されていた。翌2月9日、中国国営メディアが、習主席とトランプ大統領が電話会談を行ったことを報じた。報道の言葉遣いから察すると、今回の電話会談は習主席サイドから働きかけて実現したものだとみられる」。

中国は、トランプ氏との間合いをとるのに苦労していた。安倍首相が、トランプ氏の大統領選当選直後に会談し、就任直後に再会談する姿を羨ましく見ていたはずである。中国メディアは、「朝貢外交」と皮肉って習氏が会談できぬ事態をカムフラージュしていたのだ。中国という国家は、素直に気持ちを現さないひねくれた面がある。2月9日の米中首脳電話会談は、習主席サイドから働きかけて実現したものだと見られる。会談内容を公にしないという話が、それを証明している。私は、当初からこの見方である。

(2)「報道によると、電話会談では、@.互いに対する感謝の表明、A.『一つの中国』に対する共通認識の確認、B.更なる米中協力関係に対する共通認識の確認、C.できるだけ早く首脳会談を開催するという4つのテーマについて協議がなされた。米ニューヨーク市立大学の夏明教授は、今回の祝賀送付と電話会談が実現したことについて、『中国外交官の努力によるところが大きい』と分析している。『このところ、中国の外交官はケ小平時代のように控えめな姿勢を示している。トランプ氏の当選後、中国側は1000人余りのロビイスト団体を米国に送り込み、トランプ大統領サイドと水面下で接触するためにあらゆる手段を講じてきた。トランプ大統領の方から新年祝賀を送るという行動を起こしたために、その翌日に電話会談が実現したと認識している人は多いが、実際は中国側が働きかけて実現させたというのが正しい」。

最近の中国外交は、ケ小平時代に戻ったように静かになっている。時より、中国王外相が強面の姿をマスメディアに見せているが、昨年のようなどう猛な態度は姿を消している。不思議なのは、自国が不利な事態になると手のひらを返したように静かになることだ。その一方で、韓国への虐めはエスカレートしている。強い米国には下手に出るが、弱い韓国には荒々しい言動をする。ジキルとハイドなのだ。

(3)「台湾の中国問題専門家・明居正氏は、『江派と生きるか死ぬかの戦いの真っ最中にいる習主席が直面している内政問題は、トランプと比べてはるかに深刻だ。さらに中国には経済危機が起きる危険性も潜んでいる。今秋に予定されている19大の前に習主席が政権内部をいかに掌握するかは、19大までの8カ月間の反腐敗運動の成果にかかっている。習政権の誕生当初、オバマ政権当時のバイデン副大統領は『習主席に余計な面倒を掛けないように』と語り、ホワイトハウスが外交問題に邪魔されず国内問題に集中できるような環境を作り習主席をサポートしていた。トランプ大統領がこの既定路線を踏襲する可能性は十分ありえる。習主席に投資し、主席が政権問題を解決した後に改めて米中交渉を行っても遅くはない』と明居正氏は分析している」。

私も、この可能性が強いように思う。米国務長官は、「過去20年間の北朝鮮交渉は無駄だった」と言い切り、全ての対応をテーブルに乗せてあると軍事的オプションを排除しないのだ。米国は、中国に対しそれなりの覚悟を求める点で、オバマ前政権との違いを際だたせている。これは、中国に対して妥協しない態度を見せている証拠とも言える。習近平氏に内政で費やす時間を与える一方で、それなりの対価を払わせる姿勢とも見えるのだ。具体的には、南シナ海でのこれまでの強引な政策への修正を求めていると読める。

(4)「こうしたことから、習主席は先の電話会談で、トランプ大統領に対し、『一つの中国』問題以外は全て話し合う用意があると伝えたのではないかと推測される。さらに習主席は、アメリカが重要視する南シナ海問題などに対し、かなり譲歩した可能性もある。具体的には人工島の建設を中止する、島から中国軍を撤退させるといった発言をしたのではないかと想像される。こうした目に見える譲歩を中国側が行えば、トランプ大統領は米国民に対し面子を保つことができ、習主席は19大までの限られた時間を江派の一掃に費やすことができる」。

このパラグラフで指摘されているように、中国は南シナ海での軍事行動をこれまでとはウソのように控えている。オバマ時代は押せ、押せムードでやりたい放題であった。それが今、ピタリと止まっている。フィリピンは、逆に南シナ海で軍事基地を作るという従来になかった動きを見せる。以前であれば、中国海軍が出張ってきて紛争になるケースだ。

(5)「『新紀元』は以前に、中国空母の台湾沖通過や中国海軍による米無人潜水機の奪取、中国軍戦闘機による米軍機への挑発行為などは全て、海空軍を掌握している江沢民派が、習政権のかく乱を狙って行ったものだと報じている。各種の問題を抱える習陣営は安定した環境が最も必要であり、米国との衝突はできる限り避けたいはずで、このようなことをする理由がない。江派が軍を使って他国との間に故意に紛争を生じさせていたため、17年1月には、中国海軍の呉勝利上将が責任を追及され、海軍司令から外されるという事態にまで発展した。その後に海軍司令に就任した沈金龍は中将に過ぎなかった」。

人民解放軍の暴走は、江沢民派による習政権への嫌がらせであるという見方は、これまでしばしば登場していた。こればかりは部外者にとって、その真偽について判断のしようがない。ただ、今年1月には、中国海軍の呉勝利上将が責任を追及され、海軍司令から外されるという事態に発展し、その後の「暴走」が消えたとすれば、江派の反抗とも言える。軍隊が政治派閥の理屈で行動するとは、中国の前近代性をこれほど現した話しもあるまい。

(6)「トランプ政権のマティス国防長官は今年2月に来日した際、南シナ海問題につい『外交ルートで解決することが望ましい』と発言している。一方中国政府は近頃、貿易問題や為替問題、南シナ海問題、北朝鮮問題などについて、水面下で調整を進めていると見られる。こうしたことから、米中が貿易問題について真剣勝負に出るのは、19大以降に持ち越されるのではないかと推測される」。

習主席が、自らの権力基盤を固めるために、米国との紛争を回避している事情はよく分かる。その典型例が南シナ海での軍事行動が止まっていることに見られる。だが、今後とも南シナ海では平穏な状態が続くのか。その保証はない。トランプ大統領が「大軍拡命令」を出しているところをみると、中国もこのまま引き下がっているとは思えないのだ。軍部が反旗を翻して動き出す危険性があろう。

いずれ米中は決定的な対立
米経済誌『バロンズ』(『ウォール・ストリート・ジャーナル』3月23日掲載)は、「トランプ・習会談、友好関係構築は絶望的」と題する記事を掲載した。

この記事は、冷静に米中関係を分析している。習近平氏にとって今年は、秋の党大会を控え、米国との関係で得点を上げなければならない切羽詰まった状況にある。そのためには、当面の妥協策を用意しなければならないのだ。トランプ氏は、「一つの中国論」を再確認することで米中関係のトゲを抜いたから、後は格別の妥協の必要性もない。むしろ、攻めて側だけに、ゆとりを持った会談であろう。

ただ一見、和やかなうちに終わった米中会談でも、本質部分は残されたままになろう。いずれ、本格的な対立時代を迎える。今回は、嵐の前の静けさである。経済問題は妥協が可能でも安全保障問題は国家の基本に関わる問題である。中国が、南シナ海からの撤収や北朝鮮問題で踏み込んだ協力姿勢を示さない限り、米中関係が安定するはずがない。要は、習氏が「軍事冒険」を放棄するか否かにかかっている。

(7)「米国のドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席は4月にフロリダ州で初の首脳会談に臨む見通しだ。この会談に関して最も忘れてならないのは、両首脳とも相手をうまく利用したいと考えていることだ。今回の訪米が大きな成功を収めるのは間違いない。それを確実なものとするため、トランプ氏の別荘訪問後に発表される公式声明に関する調整は、かなり早い段階から行われるだろう」。

中国側はこれまで、米国に対して「対立よりも協力」をと呼びかけている。これは、中国の国内情勢から見て、最もメリットがあるからだ。米国もこれに異を唱える理由はない。初のトランプ・習氏の顔合わせは「シャンシャン会談」に終わるであろう。

(8)「習氏はさまざまな『手土産』を持参するはずだ。米国のインフラへの投資や米国債の購入拡大を表明したり、関税に関して取引に応じる姿勢を示したりするかもしれない。中国本土の企業経営者を多数引き連れてきて、米国内での雇用創出を約束させることもあり得る。習氏は、2013年にカリフォルニア州の保養施設でバラク・オバマ前米大統領と歓談した時よりも、大きなインパクトを残さなければならないことは分かっている」。

習氏が、トランプ氏を喜ばせるような大型商談を用意してくるに違いない。トランプ氏の性格から、できるだけ刺激しないように振る舞うだろう。中国の「大国意識」を封印して、米国に協力するようなポーズをとる。これは習氏の本心でないから、いずれメッキが剥がれる。その時のトランプ氏の怒りは今から想像できるのだ。ツイッター攻撃はもちろん「中国一国論」を揺るがす発言も飛び出すに違いない。今回の訪米で習氏が、下手に出て取り繕った態度を、その後ひっくり返えした時の反動は「2倍返し」では済まないだろう。習氏は、トランプ氏に対して心して対応すべきだ。

(9)「だがいずれ、プライドの高い2人の首脳がお互いに意外と利用しにくい相手であることに気付けば、厄介な状況に陥るのは明らかだ。両首脳とも、相手に対して融和的な姿を自国民に見せる余裕のないことは認識している。コンサルティング会社ユーラシア・グループのアナリストらは、『トランプ氏が中国に関して特に懸念する経済上や安全保障上の問題は、この会談で解決に向かう問題がたとえあったとしても、大部分は未解決に終わるだろう。利害関係や今後の見通し、さらにトランプ氏と習氏のスタイルに関して、両国の溝の深さが明らかになり、米中間の緊張はさらに高まる恐れがある』と指摘。『単なる時間稼ぎか、貿易、為替、北朝鮮、南シナ海、台湾に関する米中の利害対立拡大による関係悪化を遅らせることぐらいしかできないだろう』と述べた」。

ユーラシア・グループは、世界政治のリスク調査会社である。国際政治学者のイアン・ブレマー氏が率いる同社が毎年発表する予想は、市場関係者の注目度が高いことで知られる。2017年の世界の「十大リスク」も年初に発表された。首位は「独立した米国」で、トランプ次期米大統領のもと、米国が世界の諸問題の解決などでリーダーシップをとらなくなる可能性を指摘した。2位には秋に共産党執行部の人事が控える中国、3位にはメルケル独首相が力を失った欧州を挙げた。

このユーラシア・グループが掲げた世界の「十大リスク」の1位と2位に名が出た米中両国の首脳会談である。表面的には習氏が妥協する姿勢を見せても、それは方便と見るべきだ。「休火山」の平穏さで終わっても、二幕では「活火山」になる恐れは極めて大きい。中国が、米国の覇権に挑戦する姿勢に変化がなければ、時間を見て熱い戦争になるのであろう。

(10)「トランプ氏は目下、相次いで浮上したロシアやアゼルバイジャンに関する情報開示を巡る問題への対応に追われている。中国に対して甘い態度を取れば、トランプ氏はその代償についてメディアからたたかれ、議会の調査で追及されるだろう。そうしたリスクは中国にも付きまとう。トランプ氏は米国を訪問した習氏を厚遇するかもしれないが、その後のツイッターで再び中国を批判しかねない。そうなれば米中関係はたちまち苦境に陥ることくらい、共産党は重々承知している」。

トランプ氏は、中国に対して甘い態度を取れない事情がある。それは、中国との「利益相反」問題である。中国政府が3月9日、「トランプ」の商標登録(38件の仮登録)を認めたのだ。トランプ氏の率いていた企業グループが申請していたホテルやレストラン、ゴルフコースなどの商標登録を承認したもの。トランプ氏にとって中国は特別な国だ。同氏は中国の4大銀行の1つ、中国銀行から多額の資金を借り入れている。また、長女イバンカさんの名を採用した商品が中国本土で幾つも商標登録されている。イバンカさんの夫のジャレッド・クシュナー氏は、中国での不動産取引でトランプ一族が4億ドルの「棚ぼた」収入を得るのを目の当たりにしたばかりだ。

以上のようなトランプ氏と「チャイナ・ビジネス」との関わりが、米議会で追及されたら大変な事態に発展する。中国政府が過去、認めなかった「トランプ」という商標登録を大量に認めた裏に「取引意識」が潜んでいるはずだ。「悪賢い中国」である。作為がないとはとうてい思えない国である。それが表面化したとき、トランプ氏は確実に「弾劾」の舞台に立たされる。それほど、トランプ氏にとって対中国への融和策はリスキーなものになるはずだ。トランプ反対派は、固唾を呑んでこの1件を見守っているだろう。
posted by beetle at 08:00| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする