2017年02月03日

全世界が注視するトランプ・安倍会談で、日本が堂々と主張すべきこと

現代ビジネス  2017.02.03  長谷川 幸洋

米政権を変えることはできないならば

「秩序のリセット」第一弾

安倍晋三首相とトランプ大統領の首脳会談が2月10日にワシントンで開かれる。これに先立って稲田朋美防衛相は3日、訪日するマティス国防長官と東京で会談する。2つの会談は日米関係のみならず、トランプ政権の先行きを占う試金石になるだろう。

トランプ政権は発足1ヵ月に満たないというのに、早くも大揺れだ。

イラクなど7ヵ国の市民や難民の入国を一時的に禁止した措置が世界中で大きな批判を呼び起こした。当該国民はもとより、グーグルなど著名企業の経営者も反対している。

政策を批判した企業の中には、「政権応援団」とみられたゴールドマン・サックスや本来、政権が守りたかったはずのフォードなど自動車企業も含まれている。そこは政権にとっても想定外だったかもしれない。与党の共和党内からも批判が出た。

混乱は政権内部にも生じている。1月28日には「グリーンカード(米国永住権)を持つ人も規制対象」と発表したが、批判を浴びて、翌29日には「カード保持者は適用外にする」と方針を変えた。まさしく朝令暮改である。

空港によって取り扱いが異なった例もあるようだ。どんな政策であれ、首尾一貫して整然と機能させるのが政府の仕事である。今回の措置がいかに異例であるか、を如実に示している。

特定国に限って当該国民の入国を禁止するとは、相手国と戦争状態のときに発動するような措置だ。大統領は「安全保障上の措置の一環」と説明している。脅威は一部のテロリストなのに、大統領はまるで一種の戦争状態をイメージしているようだ。

私は先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50817)で「トランプ政権は本気で戦後世界のリセットを目指すのか」と書いた。今回の入国禁止もその延長線上にある。まさに米国と世界が交わる関係のあり方を根本から揺るがした。

今回の措置は、秩序のリセットにつながる政策が実際に発動された第一弾だ。

この後、大統領が示唆してきた対中国政策の見直しや北大西洋条約機構(NATO)の防衛義務見直し、国連の分担金削減、気候変動枠組条約からの脱退などを本気で実行するなら、世界秩序は文字通りリセットされかねない。

そんな中で開かれるのが、10日の日米首脳会談である。テーマは自動車問題をはじめ環太平洋連携協定(TPP)に代わる日米の新たな通商枠組み、東アジアの安全保障問題などが想定されているが、世界が注目しているのは「トランプ大統領の本気度」である。

一連の発言は単なる大口叩き、あるいは交渉を有利に運ぶための「はったり」なのか、それとも大統領は米国と世界の関係を本当に根本から修正するつもりなのか。

ツイッターは単なるつぶやきだが、一国の首相に面と向かって語るなら、後で「あれは冗談だった」などと簡単に取り消せない。大統領が首脳会談で日本やメキシコからの自動車輸出に高関税をかける姿勢を示すなら「大統領は本気だ」とあらためて世界が認識するだろう。

英国を除けば、具体的な問題案件をめぐって関係国のトップと実際に顔を合わせて会談するのは今回が初めてになる。だからこそ世界が注目する。もっとも神経を尖らせているのは中国だろう

日本はこう立ち振る舞えばいい

中国にとって「1つの中国」は絶対に変更できない大原則である。

トランプ大統領が本当に「1つの中国」を見直すなら、中国は米国との直接対決も厭わず、台湾の権益を守ろうとするに違いない。結果として、米中の武力衝突が起きる可能性もある。

欧州も日米首脳会談に注目する。

大統領は選挙戦で日本に対して、米国に守ってもらいたいなら米軍駐留経費を全額負担するよう要求した。まったく同じように、欧州にもNATO同盟国が適切な防衛負担をしないなら、なぜ米国が欧州を守る必要があるのか、と疑問を呈している。

日本に対する負担増要求が本物なら、欧州は自分たちに対する要求も本物と受け止めざるを得なくなる。つまり、今回の日米首脳会談は近い将来の米中会談や米欧会談の先駆けになる。

政治的効果からみると、もしも自動車や為替問題など日本に対する大統領の批判が沈静化するようなら、世界は「発言ははったりだった」あるいは「最初に大口を叩くのは大統領の手口なのだ」と受け止めるかもしれない。

逆に、大統領に譲る気配が見えないと「他の分野でも強硬姿勢を貫くかもしれない」という推測が広がって、世界にはバッドニュースだ。

さて、日本はどうトランプ政権に立ち向かうべきかも書いておこう。もっとも重要なのは中国との関係である。

日本は中国とはガチンコ対決している。だから日本海を挟んだロシアとは対決できない。これは日本が置かれた戦略的環境であり、変更不可能だ。

トランプ政権も同じく中国には強腰な一方、ロシアには柔軟である。だから、安全保障問題で日本はトランプ政権と共闘できる。

米軍駐留経費問題で米国が「経費を全額負担せよ」と言ってくるなら「本当にそれでいいのか」と切り返せばいい。米側のデータに従えば、全額負担したところで15億ドル、1ドル100円換算なら、せいぜい1500億円とか2000億円程度の話である。

米軍が日本から引き揚げて日本が単独で中国に立ち向かおうとすれば、中国の軍事費は日本の防衛費の4倍なので、少なくとも15兆円は防衛費を増額しなければならなくなる。そんな独自防衛の場合に比べて、米国の要求を丸呑みしても100分の1の追加負担で済むなら安いものだ。

実際は、おそらくそんな話にはならない。相手の費用を全額負担するとなったら、論理的には「カネを全部払っているのだから、オレの指図どおり動け」という話になる。そもそも米軍経費を他国が全部負担したら、米国憲法上も疑義が生じる。

結局「日本は防衛負担を増やせ」という要求に落ち着くだろう。そうなら、米国が言い出す前に日本が「防衛負担を増やす」と言うべきだ。

中国と北朝鮮の脅威は数年前に比べて、はるかに増した。もともと米国に言われるまでもなく、日本が自分の判断で防衛能力を強化しなければならないのだ。米国に言われて増やすようでは、いつまで経っても対米追従思考から抜け出せない。

こちらが先に言い出せば、米国との信頼関係も深まる。日本は米国なくして単独では、中国にも北朝鮮にも立ち向かえない。だからこそ、交渉のイニシアティブは日本が握るべきだ。

割り切って考えればいい

よく知られているように、日米は「米国が鉾(攻撃)、日本は盾(防衛)」という役割を分担している。防衛負担の増額を先に言い出せば、日米の役割分担見直しも提起しやすいだろう。

昨年、中国は尖閣諸島に軍艦を派遣し、北朝鮮は日本海に21発のミサイルを打ち込んだ。そんな現状を踏まえれば、日本は盾の役割にとどまらず、策源地攻撃能力(敵基地攻撃能力)も備えるべきだ。それが敵の攻撃を抑止する力になる。

日本の攻撃能力をどうするかは、マティス国防大臣との会談で下ごしらえが始まるかもしれない。ただし、政府は表向き口外しないに決まっている。

なぜかといえば、与党内で了解がとれていないからだ。表面化すれば、左派マスコミは「国会も与党もきちんと議論していない話を米国と先に約束したのか」とお決まりの建前論で批判するに違いない。

そんな建前論はともかく、日本を取り巻く脅威の現状をどう評価し、それに対する対応策をどう考えるか、という現実的な政策論こそが必要だ。

トランプ政権はたしかに大きな懸念を抱えている。とはいえ、日本がどうこう言っても所詮、米国の政権を変えることはできない。日本は国益を基本に割り切って付き合えばいい。
posted by beetle at 08:23| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする