2017年01月22日

中国、「恐怖!」米の対中貿易政策「30年前の日本」再現か

勝又壽良の経済時評  2017-01-22 05:00:00

米国の貿易赤字、49%が中国

中国政府は、米国新政権の対中貿易政策に戦々恐々としている。口では、「世界の二大強国」と豪語するが、その中味となると「ウドの大木」に過ぎない。減り続ける外貨準備高に神経をすり減らすなど、軽くなってきた「財布」の行方に神経を尖らしている。

トランプ政権は、「アメリカ・ファースト」を旗印に掲げている。膨大な貿易赤字を減らして、国内の雇用を増やすというのだ。2015年は貿易赤字額の49%を中国が占め、日本の9%を大きく上回っている。こうして、米国が対中貿易政策で大ナタを振るうのでないかと見られている。内容が分からないだけに、中国政府は警戒しつつも手の打ちようがない。

モノの貿易でみると米国の赤字は2006年がピークで8279億ドル(約95兆円)。直近の15年は7456億ドルである。このうち、約半分の赤字が対中国であるから、トランプ大統領が、中国を目の仇にしている理由が分からないでもない。

日本は1980年代から対米貿易摩擦が持ち上がり、米国から手痛いしっぺ返しを受けた経験がある。当時、米国の貿易赤字額の65%(1991年)は日本であった。米議会では、日本の電気製品をぶちこわすというパフォーマンスが演じられるなど、日米貿易摩擦は深刻な状態に陥っていたのだ。

中国が、米国の貿易赤字で日本を上回るのは2000年からだ。中国がWTO(世界貿易機関)に加盟したのは2001年である。それ以降、米国の貿易赤字拡大の主因は中国となった。ここで不思議なのは、中国が米国の貿易赤字拡大のテコになっていながら、政治的に米国と摩擦を起こすことばかり行ってきたことだ。南シナ海における傍若無人な領海拡張戦略が、いずれ米国の「自由航行原則」と衝突するリスクを考慮しなかった。

オバマ政権の8年間は、対中でジッと我慢の政策を続けてきた。リーマンショック後の財政再建を第一として極力、紛争を回避する逃げの政策であった。中国が「米国弱し」と見くびる理由となったのだ。トランプ政権は、オバマ政権時に見くびられた中国に対して、失地回復策に出るのは当然であろう。

「新参者」中国が、南シナ海を我が物顔で占拠する姿は、トランプ氏ならずとも、心ある者には許し難い行動に映るはずである。オバマ氏は、TPP(環太平洋経済連携協定)という多角的貿易協定によって、アジア経済圏から中国排除の対抗策を練り上げた。だが、後任のトランプ氏は、その意図を理解できずにいる。オバマ氏が、紛争に走らず平和的手段で、中国「締め上げ」策を講じていたのに、TPPに無関心とは困った米大統領だ。直接、軍隊を差し向けて相手に手を出すよりも、経済的に締め上げる政策の方が、はるかに高等戦術である。トランプ氏が、オバマ流のTPP政策の真意を理解できないのは惜しいことである。

中国メディア『中金網』(1月10日付)は、米国がかつての日本に対して行ったのと同じ方法で、中国に対抗してくるのではないかと懸念を示す記事を掲載した。『サーチナー』が転載した。

トランプ氏は米通商代表部(USTR)代表には同元次席代表で弁護士のロバート・ライトハイザー氏を指名した。ライトハイザー氏は、対中強硬派としても知られているためか、中国ではトランプ政権に対する警戒の声が高まっている。

(1)「1980年代の日本はバブル期で、今の中国のように米国企業や不動産を買収し、質が高く、相対的に安価だった日本製品は大量に米国に輸出され、米国は莫大な貿易赤字を抱え、日米貿易摩擦が生じた。ライトハイザー氏はレーガン政権下でUSTR次席代表を務め、対日鉄鋼協議では日本を自主的な輸出規制に追い込んだことで知られている」。

1980年代、日本が対米貿易最大の黒字を出した裏には、鉄鋼製品の大量輸出があった。これが、米鉄鋼業衰退の引き金を引いた。ライトハイザー氏は、レーガン政権下でUSTR次席代表を務めて、日本製品の輸出に歯止めを掛けた。これだけでなく、円高=ドル安による為替政策も日本の輸出にブレーキ役を果たした。

この米国の「立役者」が、今度は、米中貿易摩擦の最前線に飛びしてきたのだ。もともと、弁護士であるから法的な知識を駆使して、中国の対米輸出の調整に乗り出すのだろう。ライトハイザー氏は、日本の対米輸出に枠をはめた経験を持つだけに、中国に対しても「八面六臂」の動きをするに違いない。

(2)「ライトハイザー氏が、日本製品の輸入抑制で中心的な役割を果たした人物である。ライトハイザー氏の起用で、矛先を中国に向けることになるのは間違いない。米国の対中貿易赤字は、15年に過去最悪となる3674億ドル(約42兆2638億円)を記録した。これは、過剰生産によってだぶついた中国産鉄鋼製品の不当廉売によるところが大きい」。

中国の鉄鋼生産能力は、異常なまでに膨れあがっている。現在の操業度は50%以下とされている。ライトハイザー氏はこの過剰設備の矛盾を突くはずだ。私が交渉当事者ならば、そこを問題にする。中国国内で生産調整できずに、失敗した部分を輸出にハケ口を求めるとは言語道断の振る舞いである。テーブルを「ドン」と叩いて、交渉したい気分にさせられるのだ。

(3)「トランプ氏は、対日政策で成功を収めた経験のあるライトハイザー氏を起用することで、元凶となっている中国の鉄鋼業に狙いを定め、『トランプ政権の最初の一撃』を加えるつもりかもしれないと懸念を示した」。

多分、中国側が危惧するような事態となろう。中国政府は、鉄鋼の生産調整について「総論賛成、各論反対」というダブル・スタンダードで臨んでくるに違いない。これまで中国政府は、GDPを押し上げる目的で、鉄鋼設備の増設を認めてきた。だが、生産調整の段階になると、雇用問題を理由に難色を示す。余りにも自国の利益だけを前面に出した身勝手な政策すぎるのだ。

中国が市場経済国家であれば、米国は鉄鋼産業不振を理由に、中国へ輸出調整を迫ること自体、「比較生産費原理」に反することである。中国の場合、「社会主義市場経済」という統制経済であり、市場原理を歪めている経済システムである。この異質の経済システム国が、「グローバル経済」のメリットを公平に享受したいというのは虫が良すぎる。WTO(世界貿易機関)において、日米欧が中国を「非市場経済国」扱いするのは当然である。

1980年代後半、米国は日本の経済システムに対してクレームを付けてきた。日本の商慣習までヤリ玉に上がった。当時、日本では「内政干渉」であるとの批判も出たが、今考えると米国の言い分はもっともである。国内に保護システムを残して、「市場経済」を名乗るわけにはいかないのだ。中国は、WTOによる自由貿易のメリットを存分に受けている以上、国内保護=計画経済を打ち切るべき時である。ライトハイザー氏は、この点にまで鋭く迫るべきだ。

中国は、輸出で経済成長してきた経済である。今、その頼みの輸出が頭打ちである。人件費上昇が生産コストを引き上げており、「世界の工場」と豪語していたのも昔のこととなってきた。「世界の工場」とはもともと、産業革命(1760〜1830年)後の英国が、その栄誉に浴したものだ。正直正銘、英国生まれの技術で生産した工業製品が、世界市場を席巻した。中国は、自国生まれの技術があるわけでなく、先進国の「下請け工場」が偽らざる姿だ。あたかも「中国技術」が世界を制覇したかのごとき振る舞いだが、ただの下請けに過ぎない。

『大紀元』(1月14日付)は、「中国、2016年輸出額7.7%、17年も不振続くと予測」と題して、次のように伝えた。

(4)「中国税関総署が発表した2016年貿易統計によると、ドルベースの輸出入総額は前年比で6.8%減少した。2年連続のマイナスとなった。米トランプ次期大統領の対中貿易政策や国内経済減速などで、17年の貿易見通しが引き続き不振の可能性が高いとみられる」。

中国の輸出入総額は、16年も前年比で6.8%減少(ドル・ベース)となった。15年も前年比減少であった。17年も前年比減少が見込まれる。この結果、3年連続の減少となる。中国では、中間財などを輸入して加工輸出する比率が4割弱ある。この結果、輸出減退は輸入減を招き、貿易総額が減少する構造になっている。

(5)「税関総署によると、16年の輸出額は前年比で7.7%減の2兆974億ドルで、下げ幅は09年世界金融危機以降の最大幅となった。また輸入は同5.5%減の1兆5874億ドルだった。国務院新聞弁公室が行った記者会見では、『世界金融危機後の世界経済回復力が依然と弱く、外需の低迷が16年貿易不振の主因だ』と示した」。

16年の輸出額は、前年比で7.7%減である。輸入は同5.5%減となった。中国当局の説明では、「世界金融危機後の世界経済回復力が依然と弱い」と外部要因に責任を擦り付けている。実は、16年に人民元は対ドルで6.6%下落していたのだ。それでも、輸出を押し上げる効果は乏しかった。輸出不振の原因は、中国内部にあるのだ。輸出品の多くが部品や原材料を輸入に依存しており、長期的には元安による輸出押し上げ効果は限定的となっている。

日本では、原材料からの一貫生産による製品が輸出される。中国輸出では、多くが部品や原材料を輸入に依存している。この点が、日本と中国では完全に異なっている。技術力の差である。中国は「世界の下請け工場」である、とする私の命名に誤りはないであろう。この脆弱な産業構造で、世界の覇権を握ったような振る舞いをするから笑われるのだ。中国に最も必要なことは、謙虚さとひたむきな努力だ。
posted by beetle at 07:58| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする