勝又壽良のワールドビュー 2024年11月17日
中国では、社会への報復を意味する「社会性報復」と呼ばれる暴力事件が後を絶たない。習近平国家主席は12日、広東省珠海市で起きた車の暴走事件に迅速に対応するよう異例の指示を出した。広がる社会不安は、政権批判につながりかねず、習政権は慎重な対応を余儀なくされている。長期不況で出口を見出せない不満が溜まっているのだ。
『レコードチャイナ』(11月16日付)は、「暴走事故の珠海市、当局が『四無五失』層の実態調査を実施かー米メディア」と題する記事を掲載した。
『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』(11月14日付)は、中国の広東省珠海市で発生した自動車暴走事故を受けて、現地当局が安全保障措置を強化する動きを見せていると報じた。
(1)「記事は、珠海市香洲区にあるスポーツセンターに男が運転する自動車が突っ込んで暴走し、公式発表では35人が死亡し43人が負傷したと紹介。この事故は全国的に注目され、多くの市民がSNS上で被害者への同情と社会の安全に対する憂慮を募らせたとし、事故の具体的な原因や動機についてはなおも調査中だと伝えた」
痛ましい事件だ。社会への不満が、こういう悲惨な事件の背景にあるのだろう。まさに、「社会性報復」という八つ当たりである。習近平氏は、「共同富裕」を唱えて自らの政策の失敗を糊塗している。
(2)「事態を重く見た中国の習近平国家主席が、治安対策の徹底を求める「重要指示」を出した。ほかに、広東省共産党委員会の黄坤明書記が、対策会議を開いて負傷者の救援や事故の処理、省内の安全安定確保に向けた手はずを整えるとともに、省内の婚姻家庭状況や住民同士の紛争、訴訟問題、農業問題、金融問題、不動産問題などの各種対立、紛争の実態調査と問題解決に努めるよう要求したと紹介した」
原因は、庶民のやり場のない不満や怒りを生んだ経済政策の失敗だ。その責任こそ、問われるべきである。個別問題に還元してはならない。
(3)「現地市民の話として、同市の各住宅地・団地では保安体制が強化されているだけでなく、安全リスクの調査も全面的に展開されていると紹介。関係当局が特に「四無五失」と呼ばれる特殊層に対する監視を強めていると指摘した。「四無」が、「配偶者、子女、仕事または安定的な収入、不動産などの資産がない」者を。「五失」が、「投資の失敗、生活への失意、関係の調和喪失、心理失調、精神異常」をそれぞれ指すと伝えた」
「四無五失」が、あたかも原因にようにすり替えられている。無職・独身者・無資産・生活苦・協調性のない人間などが、集中的な監視対象になっている。第二の「コレラ患者」扱いである。こうして、問題を矮小化して政府の責任を回避している。実に巧妙な共産党非難回避策である。原因は、あくまでも習近平氏の政策の失敗だ。
(4)「記事は、中国SNS上では13日頃より、同市の一部住宅地・団地で「四無五失」層の人数を把握する動きを示す画像が急速に拡散していると紹介。市民からは、「今や小中学生を除く全員が『四無五失』だ。中央委員は今の中国の体制と人間関係の調和喪失が関係性を持たないとでも言うつもりなのか」との不満の声が聞かれたと伝えた」
下線部は、痛烈な政府批判である。「今の中国の体制と人間関係の調和喪失が、関係性を持たないとでも言うつもりなのか」と問うている。共産主義と人権無視の思想が、こういう悲惨な事件を生む背景にある。
『日本経済新聞』(11月14付)は、「中国、止まらぬ『社会性報復』習政権が恐れる批判の矛先」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の桃井裕理記者である。
当局は「社会性報復」の存在は認めていない。珠海事件の犯人の動機は「離婚協議への不満」、9月の上海事件は「個人的なトラブル」と説明している。深圳や広州の事件では動機は公表すらされていない。事件の背景はあくまで個別事情との立て付けだ。
(5)「相次ぐ事件の原因が社会不満と認めれば、責任のありかが問われる。その矛先が経済運営を担う政府や中国共産党に向かう可能性は十分にある。習政権は批判の矛先をかわすうえで「中央は善、地方は悪」との構図も巧みに打ち出している。習氏は、事件の対処へ「中央工作組(対策チーム)」を珠海に派遣した。広東省の30代の女性は、「中央工作組が来てくれれば、きっと地方のしがらみや利権を切り離して公正に物事を処理してくれる」と期待を示す。習政権は日々の生活における様々な不公平や理不尽はすべて地方の腐敗幹部のせいであり、中央は人々を救う「正義の味方」と位置づけている」
下線部の指摘は痛烈である。中央=習近平氏は、正義の味方である。悪いのは、地方の腐敗と責任転嫁している。
(6)「中央への批判は、直ちに取り締まられる事情もあり、不満は地方政府に向かうよう誘導されている。それでも、人々の生活に最終的な責任を負うのは中央にほかならない。中国外務省の林剣副報道局長は、13日の記者会見で「中国は犯罪率が最も低く、世界で最も安全な国の一つ」と述べ、事件に衝撃を受けた人々の気持ちに寄り添わない発言を繰り返した。習政権が、無為無策のまま「社会性報復」が相次ぐ事態を変えられなければ、いつかは習氏自身に矛先が向かうこともあり得る」
中国政治を取り仕切っているのは、地方政府でなく習近平氏である。習氏は、責任転嫁していると、いずれ習氏自身へ矛先が向けられるのだ。
posted by beetle at 04:50|
日記
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